ボクシングジムを見る少年
先日、ボクシングジムを覗き込んでいる少年がいた。
職場近くの雑居ビル1階にあるそのジムは退勤時の信号待ちで停車する通りにあって、私はほぼ毎日その前で止まる。
サンドバッグが6つほど天井から吊るされ、奥には簡素な(実際に近くで見たことはないのでどんなものかはわからない)リングがある小さなジムだ。
体を鍛えるためなのか、アマチュアボクシング選手か本気でプロを目指しているのか、数名の若者が利用しているのを見かける。
その日は珍しく2名がサンドバッグを相手にしていた。
件の少年は、母親と帰宅途中のようだった。
きのこマッシュの髪型はサラサラで、トートバッグを持っていて、ピアノか何か習い事の帰りだろうかと思ったのを覚えている。
何故帰り道かと思ったかと言えば、全く急いでいなかったからだ。時間に余裕があったのかもしれないけれど。
その少年は手足がひょろりとしていて、筋肉とは無縁な様子だったが、信号待ちの間ずっとジムの中を覗き込んでいた。
凄いなと思ったのは、彼が夢中になってジムを覗き込んでいる間、歩行者信号は青だったのだ。
にも関わらず、母親は彼をせっつくことなく待っていて(まあ、その母親もスマホを弄っていたかもしれないが)ギリギリになってようやく彼に、少々待ちくたびれたように声をかけた。
その育ちの良さそうな雰囲気の彼と、荒々しい格闘技のミスマッチさに、やっぱり男の子はこういうものに憧れるんだろうかと思った帰り道だった。